石屋のしごと -vol.1 東京ミッドタウン日比谷-
関ヶ原石材が石工事を担当した物件を紹介する「石屋のしごと」。
身近な実際の建物を紹介しながら、石の面白さ・奥深さを伝えていければと思います。
第1回目の物件はこちらです。
■物件名
東京ミッドタウン日比谷
■設計・施工
鹿島建設株式会社
■竣工日
2018年3月29日(開業)
■石工事概要
低層部外装:トロピカルゴールド
外構:トロピカルゴールド・G682・森林緑・チャイナカレドニア
周辺道路:イタリア斑岩
■物件概要
地上35階、地下4階建てで、オフィス部と商業施設部からなる大型複合施設。
メインエントランス前には屋外スペース「日比谷ステップ広場」がある。
ー使用石種のご紹介
東京ミッドタウン日比谷における石部分の見どころは、重厚感のある低層部です。
低層部に使用されている石は「トロピカルゴールド」というミカゲ石です。
トロピカルゴールドはアフリカ南西部に位置するナミビアで産出され、広大な岩盤により安定した供給量があります。
この石は大きな特徴が2つあります。
1つ目は、全体的に黄色がかったミカゲ石である点です。
採掘箇所や深さによって地色は濃淡に変化し、現在は地色の淡いものが多く産出されています。世界的に見ても黄色いミカゲ石は珍しく、中でもトロピカルゴールドのように大規模に生産可能な石は貴重な存在です。
2つ目は、錆石である点です。
錆石とは、他のミカゲ石より鉄分を多く含んだ石で、火を使用した仕上げ(ジェットバーナー仕上げ)をかけると、鉄が酸化し赤茶っぽい見た目に変化します。同じ石種の仕上げ違いを使用することで、統一感を出しつつも個性のあるデザインにすることができます。
(左:本磨 右:ジェットバーナー仕上げ)
ー建築の豆知識を教えて!
低層部のトロピカルゴールドの壁は、「ノミ切り」と「ウォータージェット」という2つの仕上げを合わせて加工されています。
今回はこの2つの仕上げを紹介します。
ノミ切りとは、表面をノミで削り、凹凸感を出す仕上です。凹凸の大きさの違いで、粗ノミ・中ノミ・細ノミの3段階があります。
職人の手作業によって加工され、ノミの跡が石に深い味わいを創り出します。
ノミ切り(石種:ベトナムグレー)
ウォータージェットとは、高圧の水で石の表面を削り、粗面にする仕上げです。
同じく粗面にするジェットバーナー仕上げ(JP仕上げ)よりも、色を濃く出すことができます。色の薄い石種よりも、濃い石種におすすめです。
ウォータージェット(石種:ラステンバーグ)
ー大変だったことは?
低層部の壁、トロピカルゴールドの見栄えにこだわったことです。
東京ミッドタウン日比谷は、アール・デコ様式(単純化された直線的・幾何学的なデザインが特徴の装飾様式)の建物として高く評価されていた「三信ビルディング」の跡地に建てられていることもあり、低層部は三信ビルディングの壁面デザインを踏襲しています。
通常は同じ壁や建物では石の色調が揃うようにしますが、今回はアール・デコ様式に馴染むよう、石の色調を敢えてランダムにしました。
トロピカルゴールドの板を色調によって6グループに仕分けし、全部品を並べ綿密な色調検査を行いました。
全体のバランスを見つつ、美しく配置するのにとても苦労しました。
低層部の壁の石は、全て職人による手加工で仕上げが施されており、全ての加工が終了するまで、2年も掛かりました。
ー担当者からひと言
見る角度によって印象の変わるデザインなので、是非新しい何かを発見してください。
また低層部以外にも、雨上がりでしっとりと濡れた周辺道路のイタリア斑岩も趣がありますので、注目してみてくださいね。
石屋のしごと -vol.1-
2020年11月