vol.4 ファッションデザイナー 廣川玉枝さんが聞きにいきました。
「服が身体を覆うように、石は建築物を覆っている」。
関ヶ原石材は、建築物の外装やインテリアをはじめ、さまざまな石材を扱っている会社で、取扱高は日本一。たくさんのビルを手がけています。
70年近い歴史を持っているので、会社の中には石にまつわる知識や知恵がいっぱい。
面白いエピソードが、あれこれ詰まっているのです。
この連載は、石について広く深く知っている関ヶ原石材の日比順次さんが、デザイナーやアーティスト、建築家、ジャーナリストなど、さまざまな業界の人をお招きし、おしゃべりするコーナーです。
新装して4回目のトークは、前回に続いてファッションデザイナーの廣川玉枝さんと行いました。
廣川さんは「イッセイミヤケ」のデザイナーを経て独立し、自身のブランド「ソマルタ」を率いながら、ファッションに限らず幅広い分野のデザインを手がけています。国内はもとより、海外に活躍の場を広げ、デザインの見本市であるミラノサローネに作品を発表して評価を得ている――そんな廣川さんが関ケ原石材を訪れ、石からどんなインスピレーションを得たのかを語ってもらいました。
日比さん
前回、「服が身体を覆うように、石が建築物を覆っている」というお話を聞いて、なるほどと腑に落ちました。
意外なところに共通点があると。
廣川さん
日比さんは、石について何でも知っていらして、お話を聞いていて触発されるのですが、もともと石好きで関ケ原石材に入られたのですか?
日比さん
いやいや、学校では機械の勉強をしていて、その延長でここに入社したのです。
石に触れるようになって興味を持ち、徐々に石の歴史や文化を知っていっただけで大したことないのです(笑)
廣川さん
私ももともと服が好きでこの仕事についたわけではなく、幼い頃から絵を描くのが好きで、絵を描きながら人の役に立つ仕事は何だろうと考え、ファッションの専門学校である文化服装学院に進むことにつながっていったのです。
服に限らず、暮らしを取り巻くさまざまなものに興味が向かっていくのは、そんなところに理由があるのかもしれません。
工場を巡りながら日比さんからうかがった、石にまつわるあれこれのお話、物凄くおもしろかったです。
日比さん
何千年も前から、人は暮らしの中で石とかかわってきたのに、日本の場合は暮らしとのかかわりが割合と浅い。
城壁や灯篭、石庭といったところで使われてきたのですが、権力のための建築物というイメージが強く、日常から割合と遠いイメージになっているのが残念です。
廣川さん
今日、ショールームを拝見して、石は空間を変える力を持っていると強く感じました。
服を身体に着せるように、石を空間に着せる。”空間の装い”という視点から考えてみるのもおもしろいのではないでしょうか。
日比さん
なるほど。石というと重厚なイメージが先に立ってしまうのですが、そうではない軽やかなイメージを出すことも大事かもしれません。
たとえば、やわらかく心地良い空間という考えを活かせないか。そんなこともありそうです。
廣川さん
私が庭に石ころや砂利をまいているのは、自然を身近に感じたい、石に触れていたい、それが心地よいと感じているからだと思うのです。
コロナ禍によって、家にいる時間が増えて日常の暮らしを見直す中で、そういう意識が高まってきているのではないでしょうか。
日比さん
服の領域でも何か影響があるのですか?
廣川さん
今までが作り過ぎていたことへの反省は出てきています。
もともと服は、半年ワンサイクルで回ってきました。「トレンド」にのっとった商品を生み出してセールをして売り切る。アパレル産業としてそういう大車輪を回してきたのです。でもコロナが起きる前から、ものを大切にしたいという意識は、徐々に広がりを見せていました。
だからファッションに興味がなくなったのではなく、好きなものを長きにわたって愛用したいという気持ちが強まってきた。それがコロナによってはっきりしたというのが本当のところだと思うのです。
日比さん
服に限らず暮らしを取り巻くあらゆるものについて言えるのかもしれません。
商業施設のブランドブティックのインテリアで石を使っていただくこともあるのですが、ブティックを作っては壊すというサイクルが早過ぎてもったいないと感じることがあります。
廣川さん
地球環境を良くするサスティナブルな意識からも、新しいものを作り続けることにネガティブな意見が出てきています。
ただ私は、服を着ることで、人は楽しい気分や心地良い思いを抱くことができるのだから、そのために服を作っていこうと考え、デザインを続けています。
日比さん
まったく同意見です。
石材はこれからも必要とされるものであり、われわれが止めてはいけないし、もっともっと広めていかなければいけないと考えています。
廣川さん
ただ、服を作って終わりではなく、ブランドを続けてきた思いや、服を作り上げるまでのストーリーを、もっと伝えていかなければいけないとも思うのです。それがあるとないとでは、ものの見え方も使い方も違ってくるのではないでしょうか。
日比さん
おっしゃる通りで、そこに力を入れていかなければならないと、ハローストーンプロジェクトを続けてきました。
廣川さんのお話を聞いて力を得た気分です。
廣川さん
石には壮大なストーリーがあるのですから、その財産を是非、生かしてください!
今後の活動を応援していきたいと思います。
日比さん
これからもよろしくお願いします。今日はどうもありがとうございました。