vol.2 『エル・デコ』ブランドディレクター 木田隆子さんが聞きにいきました。
「石のことを知ったらもっと学びたくなる、使ってみたくなる。」
関ヶ原石材は、建築物の外装やインテリアをはじめ、さまざまな石材を扱っている会社で、取扱高は日本一。たくさんのビルを手がけています。
70年近い歴史を持っているので、会社の中には石にまつわる知識や知恵がいっぱい。
面白いエピソードが、あれこれ詰まっているのです。
この連載は、石について広く深く知っている関ヶ原石材の日比順次さんが、デザイナーやアーティスト、建築家、ジャーナリストなど、さまざまな業界の人をお招きし、おしゃべりするコーナーです。
新装して2回目のトーク相手は、前回に続いて『エル・デコ』のブランドディレクターを務める木田隆子さんです。
世界25カ国で展開している『エル・デコ』の日本版を代表する存在として、多彩な活動を繰り広げています。世界のトップクリエイターをはじめ、さまざまな産地の職人さん、企業の中でデザインにかかわっている人など、幅も奥行きもあるネットワークを携え、第一線で取材を続けてこられました。
そんな木田さんが関ヶ原石材を訪れ、石にどんな可能性を感じたのでしょうか――。
日比さん:
前回、「石が暮らしに近い存在になったらいい」というお話をいただいて勇気を得ました。
木田さん:
世界のデザインの大きな流れの中でも石がクローズアップされていて、確固としたポジションを得るようになっています。
前回もお話したように、ここ関ヶ原石材さんを訪れ、石には”石の力”とともに”人の力”が宿っていると感じました。この感覚が伝わっていくといいですね。
日比さん:
工場に置いてある世界各国の石の塊は、言ってみれば”無造作なかたち”であって、完成品ではありません。
うちの仕事は、これらの石を加工して手渡していくところにあるのです。
木田さん:
加工しないと埋もれたままになる物体としての石、その中に閉じ込められていた、いわば宝もののようなものを掘り出しているのが、
関ヶ原石材さんのお仕事なのですね。
日比さん:
建築家やデザイナーの方の意向を受けて加工するので、黒子として後方からのお手伝いを担っているだけですが。
木田さん:
控え目でいらっしゃいますね(笑)
でもその意味で、建築家やデザイナーの方と組んで、建物だけでなく、違う角度でモノ作りして発表していくのもひとつのやり方ではないでしょうか。
石を身近な存在として伝えていくことが大事だと思うのです。
日比さん:
具体的には、どんなところから入ったらいいと思われますか?
木田さん:
魅力的な存在なのに、石が暮らしから遠い存在になっているのがもったいない。まずは石そのものを身近に感じてもらうのが大切ではないでしょうか。
たとえば、石のすり鉢であるとか、カッティングボードなど、キッチンで使うアイテムもいいのでは?
日比さん:
かつて日本では、石臼をはじめ、暮らしに近い存在として石が使われていたのに、いつの間にか遠くなってしまったのです。
木田さん:
それを、今にフィットするスタイルで取りもどしたいですね。
料理の過程で、人と石、食材と石との対話が生まれるキッチンがあったら、そこに豊かな時間が流れることでしょう。
あるいは、天板が大理石でできた小さなテーブルを置いたら、部屋の中に小さな池が生まれたような、清涼な空気が流れるかもしれません――
いろいろと夢が膨らみます。
日比さん:
うちでは「いしぞう」というブランドで、石を使ったブックエンドや花瓶など、いくつかのアイテムを開発し、ネット販売も行っています。木田さんがおっしゃるように、可能性があるアイテムはトライしていきたいと考えています。
木田さん:
石の良さをあまり知らずにいて、暮らしにどう取り入れたらいいのかわからない人は多いと思うのです。でも、石のことを知ったらもっと学びたくなるし、何か使ってみたいと思うはず。
ここ関ヶ原石材さんを、もっとオープンにしていくのもいいかもしれません。
日比さん:
こういう活動を続けていって、たとえば10年後に「石のことだったら関ヶ原石材に聞けばいい」という方が一人でも増えていったら嬉しいです。
木田さんも是非、応援していただければ。
木田さん:
もちろんです。
少し宣伝っぽくなりますが、最新の『エル・デコ』について。3月7日発売の号では、コロナ禍が始まって一年ほどたって、新しい生活を実感する時期に、モノ選びの新基準という特集を組みました。
コロナを経験して、家にいることが増え、生活の質に目が向くようになっています。その時、家の中にどんな空気が流れていてほしいのか。家具選びの新しい考え方もシェアしています。
日比さん:
そういう時代に向け、石を取り入れた暮らしを提案していきたいと考えています。
木田さん:
是非! また、深澤直人さんとジャスパー・モリソンさんへの緊急インタビューも必読。15年前にアクシスギャラリーで行なった展覧会『スーパーノーマル』における、フツーの美しさを見出す考え方がパンデミックの後、どう変化したのかを改めて聞いています。
暮らしが変わって行く中で、まずは自分の日常の磨き方が問題になってきているとも言えます。トレンドも大事だけど、まずは自分の美意識きちんと育ててますか?と、そんなことが大切に――合わせて読んでいただけたらと思います。
日比さん:
楽しみに拝読します。木田さん、今回はどうもありがとうございました。